遠藤ケイ
遠藤ケイのキジ撃ち日記
ガイド
房総での1年間の暮らしを追うエッセイ集

書誌
author | 遠藤ケイ |
publisher | 山と渓谷社 |
year | 1993 |
price | 2300 |
isbn | 4-635-33017-6 |
履歴
editor | 唯野 |
2025.9.13 | 読了 |
2025.9.24 | 公開 |
『男の民俗学』が大変おもしろかったので他の本も読んでみた。書名にもなっている「キジ撃ち」とは山中で野糞をする隠語だが、著者の家では便所が壊れて以来、キジ撃ちするのが生活の一部となっており、それに絡めた日記風の一年間をまとめたのが本書となっている。
山菜採りから魚捕り、道具作りなど話題は多岐にわたるが、なぜか、きのこ採りが出てこないのは不思議である。単に当たり前すぎるのかもしれないが... なかなか刺激的な文章もあり、アウトドアブームへの苦言なども直截に語られている。もっとも著者だってこういう文章で糊口をしのいでいたのであり、全国各地や海外へ行くにも文明の利器がなければ行けないのも事実である。それでも本書が嫌らしくないのは、著者が「山っ気」と呼ぶその種の感情に衒いがなく、悩みは悩みとして表現する、その素直さにあるように思う。本書に登場する苦言の裏返しとしていえば驕りがないということであり、それは確かに厳しい自然と対峙するといやでも一個の人間の存在などそうならざるを得ないという諦観が生む結果でもある。
私も大して偉そうなことを言える立場ではないが、上記の部分は同感であるし、それゆえに著者のスタンスも分かる気がする。
抄録
8-9
嶺岡林道沿いには、〝アオダラ〟の木が多い。ニワトコ同様、陽木であるタラノキも充分に森林を形成していない荒れた山に根をつける。とくにアオダラは繁殖力が旺盛で、いたるところに株を増やし、大木に成長する。
アオダラは、もっとも好物とする山菜で、香り、アク、えぐ味が強く、嫌う人も多いが、そこがたまらない。鋭いトゲを持つ枝を引き寄せ、新芽を摘む。-/-因みにアオダラの名は勝手な命名。正式にはカラスザンショウらしい。-/-「こんなものを食う人はほかに知らない」と懐疑的な視線を投げかける。だが、誰が何と言おうと、長年食してきて旨く、腹もこわさないのだから、ひるまない。
二、三時間も山で遊び、籠は春の山菜で満たされる。アオダラ、アオギリ、アザミ、山ウド、蕗、アケビの芽、筍、ワラビ、ゼンマイ、ノビル、アサツキ等々。
家に帰り、調理にかかる。-/-筍はぶつ切りにし、魚のあらと一緒にタイ・カレーの具にする。アザミの若葉は油で炒め、味噌、砂糖、酒で味付けをする。アオギリは多めの油で炒め、天ぷら風に仕上げる。山ウドを生のまま薄切りにして薄塩でもみ、アサツキ、ノビルは味噌をつけてかじる。