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Eric S. Raymond(編)
ハッカーズ大辞典
改訂新版

ガイド

書誌

authorEric S. Raymond(編)
editorGuy L. Steele Jr.(絵)/福崎俊博(訳)
publisherアスキー
year2002
price3,800+tax
isbn7561-4084-X

目次

1本文

履歴

editor唯野
?読了
2002.7.29公開
2004.7.19修正
2014.1.27修正
2020.2.25文字化け修正

Jargon File 3.0 の翻訳書。Jargon File とはハッカーたちのスラングの類を集めたもので、とにかくおもしろいものである。(なお、ここでいうハッカーについては 「Hacker 不是 Cracker」 や同じくリンク集の方を参照されたし。)本書の直前に読書ノートとして取り上げた 『コンピュータ用語の哲学』 の最後で私は「コンピュータ用語といえども、その言語とその言語が背後に持つ文化の影響から逃れることはできない」と書いた。では、その「文化」とは具体的にどのようなものを指すのか ? その答えのひとつが本書である。

例えば、この本で「IBM /I-B-M/」を引くと、以下のような具合である。

n. Inferior But Marketable (粗悪だが売れる)、It's Better Manually (手でやった方がまし)、Insidious Black Magic (油断のならない黒魔術)、It's Been Malfunctioning (ずっと不満)、Incontinent Bowel Movement (抑制のきかない排便)、その他、これよりさらに好感度の低い展開パターンはほとんど無数(infinite)にある(そう言えば 'International Business Machines' なんてのもあるが)。TLA を参照。こうした例から、ほとんどのハッカーが長年この「業界のリーダー」に対して相当の反感を抱いてきたことが浮き彫りになる(fear and loathing を参照)。-/-

そして、単なる用語の解説にとどまらず、Crunchly シリーズと称された 4 コマ漫画、ハッカーの伝説、生態、参考文献 etc.. までを網羅している点が圧巻である。とにかく辞書というよりは一種のどこからでも読むことのできる読み物として非常に優れている。そして、ここが重要なのだが、実は意外に本書は実用度が高い。それは、ハッカー文化というべきものは今日でも存在し少なくない影響力があること、特にジョークの類を理解する上で本書の知識が有用だからだ。例えば、日本語で「国際事務機器」とあれば、それは IBM のことである。上の International Business Machines を日本語に直訳すれば――もうお分かりだろう。

そんなわけで、私もたまにパラパラとめくっては好きなところを読んでいる。その意味で辞書が読み物になるというのを地で行っている本といってよい。それだけにコンピュータが持つ本当の奥深さの一端を知る上では極めて有益な本だといえる。また、それゆえに単なるコンピュータ使いよりも一歩(何歩もというべきか)先の地平が見たいのであれば、使用する言語や OS を問わず本書はある種の必携書となろう。何より Jargon File に対する態度から、その人のハッカー度(?)が分かるというだけでも、明らかな副作用があるというべきではなかろうか :-)