ホーム > 読んだ

柴田ヨクサル
ハチワンダイバー (全35巻)

ガイド

書誌

author柴田ヨクサル
publisher集英社
year2006
price545
isbn978-4-08-877185-4

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2015.8読了
2015.9.28公開
2020.2.25文字化け修正

最近はほとんど指すこともないのですが、なぜか将棋漫画はそれなりに読んでいて、これより以前だと『しおんの王』も読んでいました。この作品は主人公が王道としてのプロを目指すというよりは、プロになれなかったがゆえの真剣師(賭け将棋)の世界からスタートして、それが最後には名人を含めたプロ棋士まで巻き込んでいくという、ものすごく乱暴にまとめると、そういうお話です。賭け将棋の世界を牛耳る鬼将会を通じて最後は谷生(たにお)との勝負に挑むわけですが、メイド服を着て将棋を指すちょっと変わったヒロインとか、バトルスーツを着る登場人物なんかは同じ著者の『エアマスター』に通じるものがあります。

どうしても将棋で勝負を描いていくと、その強者(もっといえば物語)の果てはどうしても名人となってしまう部分があり、その名人なりがいかに強さを得たかという部分を非人道的な所業に求めるというのも、ある意味で分かりやすいといえば分かりやすいのですが、非情さが強さに直結するものなのか――といわれると、そんなに単純なものでもないような気がします。むろん、これ自体が将棋に限らず勝負事漫画における一種の普遍的なストーリーなのかもしれませんけど。

しかし、抄録でも引用したように、超絶的な強さを誇る谷生をしてなお「読み切れない」といわせしめる辺りは、いいですね。『人間に勝つコンピュータ将棋の作り方』などを読むと、昨今のプロ棋士とも渡り合うコンピュータ将棋においては、盤面に対する有効な手を評価関数によってランク付けしていくのが主流のようですが、その評価関数に対するパラメータ(駒の位置関係や状況)はものすごい数のようです。しかしながら、同じことが人間の人生にまで応用できるのかといわれれば、当面は無理でしょう。将棋のように限られた条件であればともかく、不確定要素としてのパラメータが多すぎるからです。もっといえば、人生においては(将棋でもそういう場面はあるのでしょうが)「最善手」を指すことが必ずしも正解たりえない、という妙があるためです。

その一方で、個人的にはプログラマに向く人の、ひとつの素養として「将棋の知識」は割と信用できるのではないかと思っています。将棋における手筋を探す作業はプログラミングでよいロジックを探す作業に近い気がするからです。もっというと、将棋における私の好きな格言の一つとして「勝つ将棋より負けない将棋」というものがありますが、ここでいう「負けない将棋」はセーフティプログラミングでいうフェイルセーフな考え方(何か問題があってもよいようにしておく)と非常に近い感じがするためです。フェイルセーフにはしておくけれども、もちろんプログラムは動く(将棋的には勝ちを目指す)という意味では、相性がよいように思います。

# とはいえ、今なら将棋漫画といえば『3月のライオン』でしょう。
# すさまじい完成度で、かつ非常におもしろいです。
# 『ハチクロ』より断然こっちの方が私は好きですね。

抄録

35巻p28