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浅野健一
犯罪報道の犯罪

ガイド

本書の警告を経てなお事態の良くなっていないのが実情です

書誌

author浅野健一
publisher講談社文庫
year1987
price540
isbn4-06-183992-6

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
?読了
2015.5.12公開
2015.7.8修正
2020.2.25文字化け修正

著者は元共同通信記者だが個人的には学者になってから知った人なので、ジャーナリストというよりは学者イメージの強い人。しかし、本書は犯罪報道における実名表記、特に冤罪となった場合におけるジャーナリズムが負うべき責任などについての提言を行なった有名な本である。犯罪報道における第三者機関などの制度を含めたスウェーデンとの違いや、実名報道が犯罪の抑止力となることに統計的にも疑問を呈するなど興味深い指摘が多い。

本書は原著の刊行が1984年であることを考えると既に30年前の著作であり、そのこと自体がひとつの驚きとなるのであるが、それ以上に考えさせられるのは30年を経てなお、わが国におけるこの種の問題での改善があまり見受けられないという事実である。冤罪が立証されても不自由な生活を強いられる人々を放置するのがジャーナリズムなのか ?――といわれれば私には極めて疑問である。

この種の問題提起はもっともっとされるべきだと思うし、結局はそれが最善の方法なのだろう。欧州で話題になったGoogleの検索に引っかからない「忘れる権利」は、デジタル時代における個人のプライバシーということを考えると、これは冤罪をめぐる犯罪報道の問題と似た部分が多く、私には割と重要なことだと思うのだが...

抄録

3 cf.4/32

-/-それは警察が犯人と断定しているからといって被疑者を犯人と決めつけ、その氏名、住所、写真などを報道していいのだろうか、ということである。もしその人が犯人でなかったら、取り返しのつかない人権侵害を犯していることになる。逮捕されても不起訴になったり起訴されても無罪になった場合、報道された人のプライバシー・名誉は回復不可能だ。そして、たとえその人が犯人だったとしても、マスコミが一般の犯罪者に社会的制裁を加えることは基本的にまちがっている。罪を犯した人を罰するのは裁判所の仕事である。

7/7-8

-/-犯罪報道の問題点をきちんと取り上げるマスコミがないのである。

冤罪を生み出さないためには、すべての被疑者・被告人は無罪を推定されていると言い切る以外に確実な方法はない。そして、この法律の根本原則を守りながら犯罪報道を行うには、スウェーデンなど北欧諸国がすでに実践している権力犯罪を除く犯罪関係者の匿名報道主義が考えられる最善の方法といえる。

21 cf.19/157